実は知らない乳酸のリアル
突然ですが、乳酸って知ってますか?
皆さんは運動して疲れが溜まった時に、「乳酸溜まってきた!」などと言っていませんか?
私も中学生頃から乳酸が溜まると疲れて体が動かなくなると理解していました。
たしか部活動の顧問の先生がそう話していたのがきっかけだと思います。
しかし、今ではそれが間違った解釈であることが分かってきたのです。
結論から申しますと、乳酸は疲労物質ではないということです。
そもそも乳酸ってなに?
まず、そもそも乳酸って何なのかということですが、
乳酸は、糖質が解糖系(嫌気性代謝)で代謝・分解されてできる生成物です。
身体の中では、筋肉でエネルギーを作る際に、糖(グリコーゲン)が分解されてできます。
嫌気性代謝とは、酸素を消費しないエネルギー代謝のことで、細胞への酸素供給が需要よりも少ない場合に起こります。
身体には乳酸を一旦中和させてから、ミトコンドリアで参加してエネルギー源として再利用する働きがあります。
しかし、激しい運動を行い、乳酸の生成が消費を上回ると乳酸が溜まった状態となるのです。
エネルギー発生の仕組み
次に、人間のエネルギー発生の仕組みですが、解糖系(嫌気性代謝)では、
筋肉を収縮させるエネルギーを得るために、筋肉に蓄えられたグリコーゲンをピルビン酸から乳酸に分解します。
このエネルギー発生の仕組みは乳酸性機構と呼ばれており、血液中に増えた乳酸の量を測定し
体内に急激にその量が増え始めた値(乳酸性作業閾値 LT: Lactate Threshold)は、運動強度の目安として用いられています。これはかなり個人差があります。
以前までの乳酸に対する一般的な認識は、激しい運動をした後に蓄積することから「乳酸=疲労物質」とされており、乳酸は悪いものとされてきました。
しかし、最近では乳酸が作られる過程で発生する水素イオンなどの作用で、
筋肉のpHバランスが酸性に傾くこと(アシドーシス)が疲労の一因と考えられています。
むしろ、乳酸には筋肉からカリウムが漏れ出して筋収縮を阻害することを防ぐ働きがあるとも言われているので、疲労を防ぐ物質であると捉えることもできます。
また、乳酸には血管新生や傷の修復促進、ミトコンドリア(酸素を利用してATPを産生する)新生、遺伝子発現調節などの働きがあることが言われています。
乳酸は糖を利用する途中でできるものですから、老廃物ではなくエネルギー源です。スポーツドリンクなどにも乳酸が入っています。
肉、魚、ヨーグルト、ワイン、漬け物等、いろいろな食品にも入っていて、乳酸は食事でも多く摂取されています。
そして乳酸を摂ることはエネルギー源を摂ることです。乳酸がエネルギー源ということはミトコンドリアで使われるということです。
特に運動中には遅筋線維や心筋で多く使われています。
一方運動中には速筋線維から乳酸ができています。
そこで速筋線維で乳酸ができて、それが遅筋線維や心筋で使われています。
また同じ一つの筋細胞の中でもまず糖から乳酸ができて、
それがその細胞にあるミトコンドリアに入って使われるということもいわれています。
このように乳酸はエネルギー源であって老廃物ではありません。
運動中の乳酸
一般的にいって、トレーニング特に持久的トレーニングをすれば同
じ運動における血中乳酸濃度は下がります。そこでLTが伸びます。
最高血中乳酸濃度も、一般的には下がる傾向にあります。
ただし高校生など発育期や、パワートレーニングなどで筋肉量を増やせた場合には、最高血中乳酸濃度は上がります。
一方、ある程度トレーニングされてきた選手では、LTなどにはそう簡単には効果が出にくくなってきます。
そうした場合には、血中乳酸濃度によるLTなどの測定は、選手の調子を測定しているともいえます。
コンディションのよいときには、血中乳酸濃度は少し低くなり、逆によくないときには少し高くなります。
一方強度の高い運動や競技直後の血中乳酸濃度は、調子のよい方が高くなることがよくあります。
それは最後まで頑張れた、スパートができたといったことです。
中長距離走などで考えると、状態のよいときは最初からの血中乳酸濃度がいつもより低く、
最後スパートでより追い込めて血中乳酸濃度がより高くなる、というようなイメージになります。
さいごに
これまで、乳酸についての紹介をしてきましたが、いかがでしたか?
乳酸が疲労物質であるという認識が間違ったものであるということはお分かり頂けたかと思います。
むしろ、乳酸は身体の中で重要な働きをしてくれていたんですね。
今まで乳酸を悪者扱いしてきた人も多いと思いますが、実は私たちの強い味方であるのかもしれませんね。